贄の教室

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教室の戸を開けたら、そこには先に来たクラスメイトが居た。 朝のホームルームが始まるまで、各々が自分の時間を過ごしている。 それは昨日とは何も変わらぬ日常。 しかし坂野イヅルの眼には昨日とは全く違うモノが見えていた。 そう彼の眼に見えたモノは、クラスメイトに張り付いている「ニエ」の姿……。 ある者は肩に、ある者は左手に、またある者は後頭部から右目にかけて、ニエが張り付いている。 黒っぽいスライムのような状態のモノが彼らに張り付いているが、その禍々しさに思わずイヅルは顔をしかめた。 「……昨日のアレは、夢じゃ無かったんだ……」 坂野イヅルは昨夜の出来事を思い出した。 身体が妙に重く、いつもより早めに就寝したイヅルは深夜2時に息苦しさで目が覚めた。 喉が灼けるように熱い。身体を起こそうとしてもなぜか動けないでいた。 唯一動かせる眼で、今の自分の状況を確認して驚愕した。 自分の身体の上を何かが這いずっている。 眼を凝らして見ると、だんだん暗闇に慣れた時にそれは真っ黒なスライム状のものと分かった。 それはまだ初めて動くことを覚えたかのように、赤ん坊のようなたどたどしい動きでイヅルの身体を足元から徐々に上がって来ていた。 身体を這い上がる毎に、締め付けられる苦しさを感じた。悲鳴を上げようにも、声の出し方が分からない。必死に抵抗しようとしたが、弱々しく器官がヒュウッと鳴るばかりだった。 ーーこれが、顔まで届いたらーー そう考えた瞬間、身体の上のモノが意思を持っているようにスライムの一部を持ち上げた。汗を流し、目を見開いているイヅルを探すかのようにその塊は頭をゆっくり振る。 ーー気付くな、気付くなーー 恐怖のあまり目を反らせない彼の眼に塊の頭が映し出される。 目も、口もない。しかし真っ黒な塊は、イヅルを見てはっきりと笑った。
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