贄の教室

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次の瞬間、先ほどまでのたどたどしい動きとは一気に変わり、塊が素早い動きでイヅルの顔まで這いずってきた。 「…………!!!!」 どれ程時間が経過しただろう。 数秒か、数時間か。 イヅルが気付いた時には寝る前の部屋に戻っていた。 身体は、動く。喉は渇いているが、大丈夫だ。 ほっと深く安堵の息を吐いて身体を起こした瞬間、消えたはずの塊がイヅルの顔をめがけて飛んできた。 今度こそダメだ、と眼を固く閉じて両腕で顔を庇ったが、それはイヅルまで届かなかった。 恐る恐る眼を開ける。 すると先ほどまで何もなかった場所に、イヅルから塊を遮断するかのように真っ白な蛇が立ちはだかっていた。 鎌首を持ち上げて、今しがたイヅルを襲った塊を呑み込んでいる。 真っ黒なスライムは、まるで力を奪われたかのように抵抗もせずに白蛇の中へ取り込まれていった。 目の前で起きる理解し難い状況に、イヅルは流れ出る汗を拭こうともせずただ眼を見開いて眺めることしか出来なかった。 黒い塊が全て消えた時、白蛇がイヅルの方を向いた。暗闇に光を放つような純白の蛇は真っ赤な目を細めてイヅルに「何も取られておらぬか」と、話しかけた。 それは口先より出る言葉ではなく、直接脳に響かせるような言葉だった。 「は、はい」 白蛇の声に初めて意識がはっきりと戻り、何故かイヅルは敬語で答えた。 白蛇は彼の安否を確認するかのように眺めてから、うむ、とうなづいた。 「……今のは何だったんですか」 「あれは『ニエ』と、呼ばれるモノ。本来ならば供物として祀られるモノが、何故か禍々しい力を手に入れて人を襲っている。お前も危ない所だった」 白蛇はイヅルの質問に優しく答える。本当なら大蛇と呼ばれる大きさの蛇が間近にいれば恐ろしい筈なのに、何故かこの蛇にはどこか懐かしさを感じた。 「……なぜ、僕を助けてくれたんですか……?」 彼の問いに、蛇は先ほどのように目を細めた。 「……覚えておらぬか……?」
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