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イヅルの問いに、白蛇も問いで返した。
覚えて……?
白蛇の声が引き金となり、イヅルの頭に断片的な記憶が蘇る。
祖母の家。
古びた神社。
破れたサンダル。
身体から滴り落ちる血液。
鉄と土の味。
目の前の黒い塊。
神社に彫られた白蛇ーーーー。
「ばあちゃんちの、白蛇様!!」
今は亡き祖母が、イヅルが遊びに来る度に散歩に出かけた神社。
そこは他では珍しく、白蛇を祀る地域だった。
答えを出したイヅルに、白蛇はどこか満足そうにうなづいた。
「お前がニエに狙われるのは二度目だ。一度目のあの時、お前は死んでいた。しかしお前の祖母はわしに願った。お前を生き返らせてくれ、と」
淡々と語る白蛇の声に、過去の出来事が鮮明に蘇って来た。
ばあちゃんちに遊びに行った日、イヅルはこっそり一人で家を出た。車で来た時に、窓から黒い塊が見えた。あれがなんなのか、近くで確かめたかったからだ。
そうしてそれを見つけて近寄ろうとした瞬間、それは大きくイヅルの上に覆い被さった。
確かに、一度死んだ。暗い塊がイヅルを嬉しそうに締め上げた事まで思い出した。
「……本来ならば禁則の所業なのだが、わしはお前に今一度、命を授けた」
一度失った命をまたすくい上げるという行為は、ただの善意だとは思えなかった。
禁則を冒してまでの代償は、何で償う?
カラカラに渇いた喉を無理に動かしてイヅルは聞いた。
「……それ、は、何の為に……?」
白蛇は理解の早いイヅルに静かに告げた。
「ニエの蝕を断つために」
白蛇の声が頭に響く。
昨夜の出来事を慎重に思い出し、白蛇の言った事を頭で繰り返した。
クラスメイトに取り憑いているニエは、頭部から遠いものほど動きが遅い。
取り憑かれた本人が、ニエを認識すれば、奴らも意思を持つ。
ニエにやられたものは、人が変わる。
人を襲って、ニエは体を手に入れる。
ニエを断つためにする事は……
イヅルは自身の右手を見つめた。
その中央には、昨日までなかった刻印が刻まれていた。
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