Prologue

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春は出会いと別れの季節だと言うけれど、私にとって別れの印象が強いのはなぜだろう……。 「――バイバイ、梗子さん」 無邪気な笑顔で去って行く彼の姿を、ただ呆然と見ていることしか出来ない。 バイバイなんて言わないで。 そう泣いてすがり付けば、彼は再び私の元へ戻って来てくれるだろうか。 こんな時、考えるよりも先に行動に移せるタイプの人間だったらどんなに楽だったろう、と思う。 「…………」 引き止めて、もし「ウザい」なんて言われてしまったら立ち直れない。 惨めな泣き顔を見せるくらいなら、潔く別れてカッコ良い女を気取る方がいい。 うぅん、振られたんじゃない。 元々付き合ってなんかいなかったんだから、ただもう会わなくなるだけ。 こうやって何かと理由をつけて、傷付かないようにいつも保険をかけることで頭が一杯なのだ。
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