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「こんにちは、貸出ですね」
にこりと笑みを乗せて利用者さんに本の貸出手続きを行う。
いつもと変わらない風景だけれど、私の心は幸せに溢れていて、今日ならどんなクレームにも苛立つことなく対応出来るような気さえしていた。
「――巡回行ってきます」
貸出カウンターを離れて図書館内を歩くと、沢山の利用者さんとすれ違う。
じっと本棚を見つめる人、何冊も抱えてカウンターに向かう人、一冊を読みふけっている人。
色々な人がいるけれど、みんなどんな思いで図書館に来ているのだろう。
そんな風に思うのは、私にとってこの場所が彼との想い出深い場所だから。
彼と毎日会っていた二人だけの秘密の場所も、巡回中につい癖のように足を運んでしまう。
「……きれい」
彼とイルミネーションを見た窓から下を覗くと、散った桜の花びらが風に煽られて桜吹雪となっていた。
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