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俺はもともとここの住人だったわけじゃない。
職場から近い寮に入っていたが、金も溜まってきたし一人暮らしでもしようと思いたち、前よりかは遠くなったが自転車で通える距離にあるこのアパートに3か月前に引っ越してきた。
入ってわかったことは、壁が薄いこと。
でもそれ以外は、綺麗なところだし家賃もそこそこ。
1Kといえど、前の寮よりも広い10畳くらいの広さ。
なにも文句はなかった。
米田香保里に会うまでは。
引っ越して2週間くらいのこと。
仕事が終わって帰宅したら、何故か一人の女がうちの前に倒れていた。
「おーい、大丈夫ですかー?」
うちの前に倒れられている以上、放置しておくわけにはいかず声を掛ける。
「……た」
「は?」
「お腹減った……」
その瞬間、腹の虫が空腹を主張し始める。
この女、腹減って倒れてるわけ?
「腹減ったなら何か食べなよ。家は?どこ?」
「食料がない。無心で帰ってきた。家はそこ」
淡々と告げる彼女が指さしたのは俺のとなりの部屋。
引っ越しの挨拶に行ってもいなかった隣の住人、アンタだったのかよ。
「ほら鍵。とりあえず部屋入れ」
彼女から鍵を受け取り、彼女を引きずり部屋に入る。
「くさ!!!」
主にタバコ。
喫煙者なのかよ。
「うーーーー」
ベッドまで連れて行くと、唸りながら彼女は蹲る。
とりあえずなんか与えればいいんだろ。
キッチンに行くと、流しにはカップ麺やコンビニ弁当の残骸。
……最悪だ。
部屋に入った時も思ったがこの家は汚い。
ハエがたかるとかの汚さじゃない。
物が多いんだ。
部屋は本やら書類が散らばってるし、灰皿にはタバコの吸い殻が山のように積み上がり、床や机には缶ビールが転がってる。
女の部屋ってもっとキャピキャピしてなかったっけ?
少なくとも、高校時代にいた彼女の部屋はそうだった。
甘い匂いやピンクや黄色、明るい色に包まれて、ぬいぐるみを置いてる女もいた。
だがこの女の家はまるで……
男の家だ。
「あり得ねぇ」
とりあえず食べ物を与えようと冷蔵庫を開ける。
しかし、その中には
缶ビールと栄養ドリンク・コーヒーしか入ってなかった。
「まじあり得ねえ」
食材くらいいれとけよ。
キッチンはごみ箱かよ……。
「ハァ、仕方ねぇ」
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