私は扉を開く

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チャイムがなる。 子供達はさっと席に着く。 教室に二人隣り合って等間隔に整列している机。 隣は桜田君。 確か歴史が好きな地味な男の子だ。 今になって思うけど、こんな小さい時から打ち込める趣味を持つなんて天才過ぎる。 先生が来るまで、みんな思い思いの時間を過ごす。 隣の女子にちょっかいだす子。 絵を描く子。 寝る子。 この時の私は一体何をしてたんだろう。 先生が入ってきた。 大友先生。 秋田からやってきた若い女教師。 確か嫌なやつだった記憶があるけど、何だっけ。 「きりーつ!」 号令がかかる。 「きょーつけー!れー!」 みんなが座るのを見届け、大友先生が話し出す。 「おはよう!今日は算数の宿題があったね!後ろから集めて。」 後ろから宿題のプリントがまわってくる。 私、やってたかな。 ランドセルの中など探してみるがない。 忘れたか。私。 忘れた場合どうするんだっけ。 わからない。 スルーか。 いや、いくら子供と言えどスルーはよくない。 「あの、先生。」 出した声はびっくりするほど高い。 気づかない間に声も変わってたんだ。 「どうした?かわちゃん。」 あ。そうだ。この先生は生徒をあだ名で呼んでいた。 私はそれがたまらなく嫌だった。 「すみません。あの宿題忘れてしまって。」 「なんだとー?!」 少し冗談めかして先生が答える。 こういうのがめちゃくちゃうざい。 「プリントをもう1枚ください。休み時間にやります。」 私の対応がムカついたのか、先生の顔が引きつった。 「何その態度!?こういう時はまず最初に何て言うんだっけ?」 はぁ?あやまったじゃない。 すみませんって。 耳聞こえないのか。 頭では言葉がまわるのに、何も言えない。 また、私は何も言えない。 「ほら!こうちゃん!」 優位になって満足したのか。 先生は笑顔になった。 くやしかった。 子供時代でも同じ。 人は何も言えないものに強く当たる。 自分が優位にいるようにまわりを踏みつける。
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