第1話

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「佐々木さんが、会社にとって必要だという事もアピール出来て良かったです」 嬉しそうにされると何となくバツが悪い気分になり、言おうか迷ったけど小声で伝えてみた。 「あの、私、結婚するかもしれないん……だよね」 「はい?昨日の話逆効果だったの?!」 と目を丸くして驚きながら近づいて来た。 「結婚を考えてみてって言われて……」 「え――っ、まだ勿体ないよ!」 「デザイナーさんだと独身の方が人気もありそうだし、私が働かないと面倒を見て貰う事になりますよね。いきなり二人分の食費ってやっぱりキツイですかね」 ついつい思ってる事を話してしまうと、神崎君は呆れた顔で溜め息をついた。 「何の話?俺は佐々木さんが勿体ないって言ってるの。しかも又くだらない事で悩んでますね」 条件反射のように謝りの言葉を伝えたが、相手がこれから大黒柱になると思うと、イメージとか金銭的な事とかが浮かぶのは普通な気もする。 「初めてだから動揺しているというか、心配になる事も沢山あるというか……」 「いや逆に経験豊富なのもダメでしょ、お金の事心配ってあの人収入少ないの?」 「あ、いや、よく分からないです」 そう言えば相手の収入とか全く分からず一人で悩んでたけど、もし生活に困るようなら私が短時間のパートに出れば何とかなる。 二人で棚物を畳んでいくが、神崎君は少しでも状況を知ろうとしてるようで質問で攻めてくる。 「プロポーズしてる時点で向こうも覚悟決めてるでしょ、働いてくれとか言われたの?」 「いえ、特に何も」 何となく居心地が悪くなり、小物のディスプレイの変更に入り空気を変えようと頑張ってみる。 「――あの人ってどこで働いてるの?」 「恐らくアンジュだと思います」 「アンジュ?――老舗の宝石店の?!」 神崎君は使わない小物をストックに収める準備をしていたが、ふと手が止まった。 「あそこだったら貰ってる……てか桐谷って社長じゃない?俺雑誌で見た事……あ、あの病室に来たオジサン!」 点と線が繋がったのか焦って床に落としたバッグを急いで拾い上げ、拓斗は相当なボンボンなんじゃないと聞かれた。 家の感じだとそうだと思うけど、まだ実感がないというか何処か他人事で頭が現実に追いつけてない感じだ。
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