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「あ――っ、起きてすぐ走ってめちゃキツイ!」
汗がどんどん湧き出る様に出ていて、陸上部の部活でも見ている光景で、スポーツドリンクでも手渡したくなるように思える。
「メイ、パンプスのくせに早すぎ!」
「いや、拓斗こそ何でいきなり走ってきたの?」
「メイがいると思ったから!」
「えっ、勘だけ!?」
頷く彼をみて『やっぱり犬みたいていうか、野生の勘凄い』と感心するしかなかった。
いつまでもここに居る訳にいかないので、とりあえず立ち上がりパンプスを履いた。
お気に入りだったけど泥や傷が沢山ついていて、歩き始めた途端、右足がズキッと痛んだ。
「草だらけになってる、髪にもついてるよ?」
恥ずかしいのと痛いのが混ざり合い誤魔化すようにパンパンと払っておいた。
この靴で全速力で走ったから捻ったのかもしれないが、彼の後ろで道を下る時も足首の痛みが増していた。
『靴…脱いだ方がいいのかな』
道路に出ると地盤が固くなっている分更に痛くなる。
拓斗は振り返ると、私の背中や腰の辺りに残っている草を無言で払い落してくれていたが、その時ノブちゃんの車が私達の目の前に止まった。
「マラソン大会お疲れ様でした!さあ、車に乗って」
彼は助手席、私はノブちゃんの横に乗る。
「コヤツ本当に怖いわ、急に走り出して。田神もスルリと交わしメイちゃん目がけてダッシュ。途中までは追いかけたんですが、歳なものでごめんねメイちゃん」
「――いえ」
車に乗れて私こそ助かったし、この足で来た道を帰ると思うとゾッとする。
「でもメイちゃんもかなり早くてビックリしました。コヤツが陸上部じゃなければ振りきれたと思います」
陸上部だと勝てる筈もないが、通りで起きた瞬間にあれだけ走れた辻褄も合うし、既に息が落ち着いてるもは後ろ姿でも分かった。
「ああ、靴も台無しになりましたね。これは新しいのを……ん?」
ノブちゃんは私の右足を見ると表情を変え、彼もルームミラー越しにこちらを見ている。
「可哀想に、戻ったら足を冷やして話の続きをしましょうか」
私の靴を優しく脱がせながらノブちゃんは静かに口を開いた。《6章へ》
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