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速度を緩め振り向くが誰もいないし、バッグを持って来たのでスマホからノブちゃんにも連絡できる。
でも今は息苦しいので、少し歩いて呼吸を整えようと思った。
急だったとはいえ、我ながら忍者のような軽快な走りだったし、体操部で鍛えておいて本当に良かった。
酸欠状態の頭の回転はこんな事しか考えられず、下り坂が続くので足が引き寄せられるように自然と前に出るが、大股で歩く感じになっていた。
車の時とは違い一人で歩くには少し心細い雰囲気だ。
目の前に広がる景色を見ながら進んでいると、微かに『タンタン』と遠くから下ってくる足音が聞こえた。
ギョッとして振り返るが、カーブになっているのでよく見えないのでまた走り出す事にした。
『マジで怖いんですけど!』
足音を立てないよう細心の注意を払い小走りを心掛けるのは、音が響いてこだまし、居場所がバレないようにする為。
ノブちゃんから連絡もないしこのまま逃げるしかないのだろうか。
汗も出てきたし呼吸も乱れパンプスでは走りにくいので、裸足になりたい気分だった。
『ちょっと隠れる場所はないかな』
キョロキョロしながら走っていると、少し小高くなっていて山林に入る場所を見つけた。
そこに登って茂みに座れば、道路からは見えない気がし、迷わずそこまで駆け上がり身を潜めた。
少し様子をみたが誰も来る気配はないので、もしかすると勘違いだったのかもしれない。
草むらに移動しパンプスを脱ぐと仰向けに寝転がってみると、足と身体がひんやりして気持ちがいい。
ここなら隠れるには十分だし、スマホをバイブ音に設定して手に持つと、目を閉じたがジャリッという音に動きが固まる。
「死体発見……」
と聞こえ、大人になって久々に悲鳴を上げてしまった。
「化け物扱い……酷い……」
ハァハァと肩で息をし目の前に拓斗がいる。
両手を膝に置いて息を整えているようだが、前髪はダラッと下がっていて表情は見えないが、慌てて起き上がってもここから逃げるのは無理だ。
「そんな……本気……で走らなくても良くない?」
しゃべり始めた彼はかなり息が辛そうだったが、微妙に後ずさりをしながら見つめているしかなかった。
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