第1話

1/12
前へ
/24ページ
次へ

第1話

適当に荷物をまとめ、タクシーを呼び、道中で母に電話しておこうと思い立つ。 支度を済ませタクシーに乗り母に連絡をすると、又スマホの電源は切っておいた。 『これからどうしようかな……』 あれこれ考える気力もなく、景色を見ながらボーッとしているしかなく、気が付いたら実家の前に着いていた。 「ただいま……」 久々に帰ってくる私を見ると「何かあったの?」と心配そうに見ている。 確かに最近全く帰ってないし、不思議がられても仕方がない。 「別に何もないけど、有給取ったから」 荷物を持って自分の部屋に置こうとすると、ご飯食べると聞かれ怪しまれないように「うん」と返事をしておいた。 突然帰って来てもやはり我が家はホッとする。 シャンデリアもないし、大理石の床でもない普通のこじんまりとした家だが、私にとってはこれが普通であるだけでも有難い位だ。 母はキーマカレーを作ってくれていたが、いつもセットで作ってくれるポテトサラダがお気に入りだ。 「本当美味しい……」 父はまだ帰っていないみたいで、母の傍で夕食を食べているとまた涙が零れそうになるがグッと堪えた。 「何があったかは知らないけど、無理してるんなら帰ってきてもいいよ?」 それだけ言ってくれた母はテレビの部屋に移動してしまう。 「私はお父さんが帰ってくるまで夕食は我慢するから」 と手にスナック菓子を持っていて、こんな時でもクスッと笑いが出てしまった。 「間食してるじゃん、太るよ」 「あのね、歳を取ったら少しポッチャリの方がチャーミングなんです」 いい訳をしてくる所も相変わらずだ。 終わったらお風呂湧いてるから入ればという流れで、一人だと全部自分でしなくてはいけない事が、ここだと上げ膳据え膳で楽ちんだ。 改めて親に感謝しつつ、食器をつけるとお風呂場に向かった。 こういう空間で生活してたんだなと久しぶりにゆっくりと湯船に浸かる。 さっきまでの事が走馬灯のように流れてくるが、何となく薄れていくようだ。 お土産何か買って帰れば良かったけど、そんな気持ちの余裕もなかったので近々何か買いに行こうと頭を切り替える努力をする。 母が好きな期間限定の水ようかんが販売されてたなと、髪を乾かしリビングに戻ると、今度はスイカを切ってくれていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加