第1章

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教室の戸を開けると、そこには雪国があった。 そう表現してしまえば、幾ばくか趣があるように思える。もちろん教室に雪国などはない、しかしこの比喩が僕には最も相応しいものだと感じる。 遅れて入ってきた僕に向かう彼ら彼女らの視線は冷たい。これから三年間よろしくやろうという仲間に対するものとは程遠い、これが僕ではない他の誰かならば身震いをしてこの場に立ちすくんでしまっていただろう。 僕は違う。大胆で、聡明で、それでいて柔和。僕はそうなりたいと願い、そのように振る舞ってきた。僕を評価するのは他人ではない、いつも僕自身だ。想像した通りに実践できたのならば、僕は僕の願う僕に近づく。 だから僕はこの一歩を躊躇わない、恐れない。グララアガア、グララアガア。助け出すのは白象ではなく、僕の願う僕だ。 僕は雪道を闊歩する。目指すは教壇、そう先ずは黒板に貼り出されている座席表を確認しなければならない。空席は偶然にも一つだけだからあそこが僕の座席なのかもしれない。だが最後まで油断しないのが僕のポリシー。 相変わらず視線の冷たいクラスメイトたちの間をすり抜け黒板の前にたどり着く。教卓に立つ僕の担任らしき男性は僕をポカンと見つめたままだ。僕の尊厳に恐れをなしているのだろうか。なぁに、直ぐに慣れるさ。 僕は座席表を確認する。やはり僕の予測通り、窓際にある一番前の空席。そこが僕の、相川の名に恥じない座席だ。伊藤、江島と僕の後ろに続き、総じて39人の先頭に立つ気分はいつ如何なる時でも最高だ。おっと、余韻に浸っている場合ではない。僕は僕の新たな居場所に座すとしよう。 僕は机のフックに中身の入ってない鞄を掛け、椅子を引きそこに座る。 僕がそうして初めてクラスは雪解けを迎え、止まっていた時間が動き出す。世界はこの瞬間を待っていた、そう僕に告げているようだ。
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