第1章

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如何なる理由も根本に還ってしまうならば、その根本を述べればいい。根本から可能性が枝分かれし、そしてそれは無限に広がっているからだ。 僕は答えを見つけてしまった、僕という人間を証する正確且つ最善の答えを。 これに気づいてしまったのだから座ってなどいられない。これは偶然に天から垂らされた蜘蛛の糸ではない。僕が確かに掴み取った勝利の方程式だ。 勢いよく立ち上がる。再びクラスは冬の到来を告げるが構ってなどいらない。僕は僕が僕であることを知らしめる、それだけだ。 「寝坊しました」 さらに気温は下がり、今年一番の寒さを記録したように思える。 だがその気持ち、僕にはわかる。ここにいる全ての人間が僕の雄大さに畏れている。 僕が大胆に寝坊だと答えたことで、遅刻の真意は無限の可能性を保持した。もしかしたら何か言えない理由があってそう誤魔化したのではないか、そういう疑念を植え付けることに成功した。 そして僕の考えの一割にでも気が付いた人間がいたならば、その人は僕の思慮深さ、聡明さの前に頭を抱えている筈だ。 さらに何かを庇うための嘘なのではと気が付いた人間がいたならば、その人は僕の優しさ、柔和さに触れて心ときめかせている筈だ。 最後に実は本当に寝坊したのではと気が付いた人間がいたならば、その人は僕の滑稽さ、ユーモラスさを理解し腹を抱えて笑い始めるはずだ。 たったの一言にこれだけの意味を込めている人間など、僕以外に存在しない。これこそが僕が僕である所以なのだ。直に彼ら彼女らは僕の偉大さに気が付く、雪解けは近い。 僕の睨んだ通り、先生が最初に氷ヅ漬けから解放される。頭を抑えている様子を見ると、僕の全てに気付き、その深さに目眩がしているようだ。やはりこの先生はただ者ではない。 「……あーうん、そうだな。折角立ってくれてるから自己紹介してもらおうかな」 自己紹介……だと……!? 一瞬あえて見逃したのかと思いきや、この先生はオレから更なる情報を引き出そうとしているのか。 面白い、ならばその期待に応えてみせよう。
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