第1章

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自己紹介、それはつまり僕が僕について語ることだ。語ろうと思えば、僕は僕についていくらでも語れてしまう。しかしながら、彼ら彼女らの様子から察するに、僕の全てを語るのは凶だ。僕と先生とのやりとりでこれだけ身動きが取れなくなってしまうのだ、彼ら彼女らに僕が合わせて少しばかり次元を下げ、さらにわかりやすく端的でなければならない。しかしそのようなことが、果たして僕にできるのだろうか。 いや、僕は決して諦めない。 無理難題が僕の目の前に立ちはだかろうとも、僕はそれを乗り越え更なる高みへと駆け上がる。僕は常に僕を、超えていく。 先ずは自己紹介で語るべきことを決めなければならない。彼ら彼女らに確固として僕という人間が伝わるように、考えるのだ。 思考の荒野を渡り歩き、ふと僕は友人Kのかつての言葉を思い出す。精神的に向上心のない者はばかだ、と。 不敵な笑みが抑えられない。僕は気が付いてしまった、僕は僕がどのような志を持ち、そして僕がどうなりたいかを語ればいいのだ。 大胆で、聡明で、それでいて柔和。僕はそう在り、そうなりたい。 しかしそれをそのまま述べてしまうことは僕にとっては至極簡単簡ではあるが、彼ら彼女らにとっては理解し難いかもしれない。もう一押し、次元を落とさねば。 たが、これについては既に答えは出ている。難しいことを十分に理解させながら説明するには、比喩を用いればいい。そうすれば、そのようにそうであると、万人が理解できる。 僕という人間を表す比喩はこの世に一つのみ存在する。そしてそれを端的に、つまりこの一言に、僕の全てを集約する……! 「卵になりたいです」 三度季節は巡る。 そう、卵は僕の理想の姿。横の関係からのちょっかいには砕け易い柔和さ、しかし縦の圧力には屈しない大胆さ、そして混ざり合うことで他を引き立てつつ、確かに自分の存在を認識させる聡明さ。卵は僕のなりたい僕を完全に兼ね備えているのだ。 僕たちはまたもや寒空を迎えたようではあるが、僕にはわかる。今回は僕が彼ら彼女らに次元を合わせたことで僕の全てを込めた一言を理解し、その上で僕という人間の偉大さに畏れを抱き、身動きが取れないだけだ。穢れを知らない子羊のように。
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