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「後十浦、いつまでも突っ立ってないで早く教室に入らんか。みんなを待たせるんじゃない」
また聞き覚えのある声が儂の名を呼び、儂は黒板の方を見た。
その声の主は、教卓のところに立って儂にギラギラとした熱い眼差しを送っていた。
その顔にも、見覚えがある。
「ああ……安堂先生……」
その人物は、高校時代にお世話になった恩師。青年期、唯一心を許せた大人だ。
儂の両親は物心つく前に離婚しており、儂を引き取った母親もすぐに失踪。それから儂は遠い親戚の家に預けられ、高校を卒業するまで厄介になった。
『アンタはウチの子じゃない』と、早い段階で打ち明けられていた儂は、そりゃあもう歪んだ青春時代を送った。その余りの非行ぶりに、周りの大人が匙を投げる中、最後まで見捨てず、真剣に向き合ってくれた唯一の大人が安堂先生だ。
高校を卒業して以来会ってはおらず、風の噂で30年以上も前に亡くなったと聞かされていた。
儂は溢れ出す感情を押さえきれず、安堂先生の元に駆け寄った。
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