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「先生……お久しぶりです」
「後十浦、いつまで経っても遅刻癖は直らんな」
ニカッと笑う安堂先生に、自然と儂の皺くちゃの目尻に涙が滲む。それを隠すように、儂は頭を下げた。
「あの頃は本当にお世話になりました。それと、いつも悪態ばかりついてすみませんでした」
「わっはっは。なあに、私はお前のような悪ガキの相手をするのが生き甲斐だったんだ」
そう言った後、先生はやや声のトーンを落とし、淋しげに呟いた。
「でも、どうせならそれは、卒業式の時に言って欲しかったな」
儂は思わず顔を上げた。
卒業式の、あの日。照れ臭いのもあった反面、会えば余計別れが辛くなると変な意地を張り、卒業式が終わると同時に儂は何も言わず学校を飛び出していた。それが長い間、儂の中で心残りとなり、死んだと聞かされた後も無念でならなかった。
だが、これでようやく伝えたかった想いを伝える事ができた。例えこれが夢でも、儂は満足だ。
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