第1章

2/8
前へ
/8ページ
次へ
「トモちゃん、起きて。もう朝だよ?」 トモコは夢うつつの中で、優しげな声で起こされている。 その声は・・・アキト先生? 「嫌だな、先生だなんて。他人行儀な。アキトでいいよ。」 眩しいほどの白い歯が覗く。白くて細い繊細な指が頭を撫でる。 眠りから覚めるにつれて、眩しい笑顔はだんだんと切迫した顔になり、美しく白い肌はだんだんと脂ぎった赤いニキビだらけの黒い肌へと変わって行った。 「母ちゃん、いつまで寝てんだよ!もうっ!」 激しく肩を揺すぶられ、トモコは目覚めた。 「あっ、今何時?」 「今何時、じゃねえよ。早く飯作ってくれよ。」 枕元の目覚まし時計を見ると8時を回っていた。 やばっ! トモコは布団を跳ね上げて飛び起きた。 「あー、ごめん。もう間に合わないから、パンでも食べて!」 「もうトースターに入れたよ。それよか、弁当、どうすんだよ。」 息子のケントに迫られてしぶしぶ、財布から500円玉を出して手渡した。 「はぁ?今日日500円じゃ、コンビニ弁当すら買えねえよ!」 そう言いながらケントは500円を突き返してきた。 仕方なく千円札を渡すと、ひったくるように掴み 「サンキュー!」 と笑顔で出かけて行った。どうせ食費を浮かせてよからぬ物にお金を使うくせに。トモコは溜息をついた。 主人はとっくにもう出かけていた。 少ないお小遣いの中から立ち食い蕎麦でも食べて行くのだろう。まあ、お小遣いの少ないのは自分の所為よね?稼ぎが悪いから。 こっちだって、少ないお給料の中で精一杯やりくりして、買いたい物も我慢してるんだから。  まあ、ここ最近別段欲しい物も少なくなって来ているのだけど。欲しくても、合わないのだ。市販の婦人服を買おうとして気に入った物が見つかっても、全くサイズが合わない。スリムなパンツを買おうとしても、まず太ももから上に上がらない。かわいいパンプスを見つけても、肉厚な足のお肉が邪魔をして入らない。ネックレスを買っても、首の肉の弛みの延長ですか?みたいな状態になる。  結局楽な伸び伸びパンツにスニーカー、体型を隠すような長い丈のシャツといういでたちになってしまうのだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加