第1章

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閑静な住宅街を抜け、少し山際の奥まったところに、その邸宅はあった。洋風の白い壁の家で当時トモコはお城みたいだと思っていた。広い敷地に相変わらず立派な高い門がそびえ立っていた。年月を経て、門には蔦がたくさん絡まり、中をなかなか垣間見ることができず、トモコは回りに誰も居ないことを確認して、蔦を掻き分けた。すると、やはり蔦がかなり絡まって長い間風雨に晒されて、白かった壁はセピア色にくすんでひっそりとその邸宅は佇んでいた。  トモコの胸に切ない気持ちが溢れてきた。あの頃のことを強烈に昨日のことのように思い出して切なくなった。 「トモコちゃん?」 その時、ドアが開き、一人の男性が門に向かって歩いてきた。 その男性は、忘れもしない。 「え、アキト先生?」 近づいてくる笑顔はあの頃と全く変わらず、姿かたちも当時のままだった。 「覚えてて、くれたんですか?私のこと。」 「もちろんさ。僕がトモコちゃんのこと、忘れるわけないでしょ?」 アキト先生はニッコリ笑った。 「でも、私、今じゃこんな姿で。よくわかりましたね・・・。」 あの頃の可憐でほっそりとしたトモコはもう居ない。 同じ人間の形とは思えないほど、トモコの体は変貌を遂げ見るも無惨だ。トモコは自分を恥じた。 「トモコちゃんはトモコちゃんだよ。さあ、入って。」 そう言うとアキト先生はトモコを招きいれた。 よりによって、こんな格好でアキト先生と会うことになるなんて。 トモコが大きな体を縮ませて、ちらりとアキトを見てなんとなく違和感を感じた。あの頃と全く変わりないというのとは別に、何かが違う。 なに?このダサいTシャツは。 アキト先生は白の胸に縦書きのカタカナで「トマソン」と書いてあるTシャツを着ていた。 アキト先生と言えば、上品な仕立てのシャツがよく似合うおしゃれな印象だったのだけど。芸術家の美観ってよくわからないけど、何か変化があったのかもしれないと思うことにした。  概観は古びていたが、中は当時のまま、綺麗に整頓されて清潔感溢れる家だった。 「お茶でも飲む?」 アキト先生の淹れてくれる紅茶は格別に美味しい。 「ねえ、久しぶりに、トモコちゃんを描いていい?」 「えっ?今ですか?」 トモコは戸惑った。以前もアキト先生に自分を描いてもらったことがあったけど、こんな醜い姿を描かれるのは正直嫌だった。
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