第1章

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「わ、私は・・・醜いです。今は・・・。」 言いにくそうに言うと、アキト先生は笑った。 「そんなことないよ。トモコちゃんはトモコちゃんだもの。ずっとかわいいよ。」 「ほ、本当ですか?」 とても信じられないけど、年甲斐も無くトモコは耳まで赤くなった。 言われるがままに、トモコは自分を描いてもらうことにした。 いろんな思い出話をしながら3時間くらい経ってもあっという間に時間は過ぎていった。 「できたよ。はい。」 そう手渡された絵はやはり今のトモコそのもので、でも少しだけ美化されているような気がした。これもアキト先生の思いやりなのかもしれない。トモコは嬉しくてつい涙ぐんでしまった。 「泣かないで、トモコちゃん。」 そう言いながら、アキト先生は涙を指でぬぐってくれた。 「ありがとうございます。ほんのひと時だったけど、少女の頃に戻れた気がします。」 アキト先生は優しく微笑んでいる。 好きでした、アキト先生。 思わずそう言いたくなるのを我慢して、絵のお礼を言いながら帰らなければ行けないことを告げた。 「家族が待っているので。」 そうアキト先生に告げると、少し驚いた顔をした。 「そうだね、もうトモコちゃんも大人の女性だから。結婚しているよね?」そう言うと、アキト先生が少し寂しそうな顔をしたような気がして、トモコはドキドキしてしまった。 そんなの思い過ごしよ。こんな醜く肥え太ったおばさんなのよ、私は。 それじゃあと、頭をぺこりと下げると、アキト先生は細い指でトモコの頭を撫でた。 「またおいでね。」 そう言うとトモコに小さく手を振った。 トモコは、帰り道嬉しくて舞い上がって飛んでしまうのではと思うほどふわふわした気持ちになった。あれは正夢だったんだ。 しかし、家が近づくにつれて、それは罪悪感へと変わった。私、もう結婚して夫と子供もいるのよ?何浮かれてんだろ。 家に帰ると、玄関に脱ぎ散らかされた靴が何足も転がっていた。もう!臭い!たぶん息子が友達を連れてきているのだ。 「お邪魔してまーす。」 むさ苦しいニキビ面が3人並んでいた。 私の宝箱、お菓子の引き出しは開けっ放しで見事に食い荒らされていた。お前らは白アリか。これが、私の現実。げんなりとしながら、エプロンをつけ、夕飯の支度に取り掛かった。
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