第1章

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 夜なかなかトモコは昼間のことを思い出して寝付けなかった。 寝る前にアキト先生が描いてくれた自分の絵を見た。ああ、今日一日アキト先生と過ごすことができて、幸せ。 アキト先生、アキト先生、アキト先生。 頭の中をぐるぐるとアキト先生の笑顔が回る。 いけない、いけないよ、トモコ。とても、アキト先生が今のトモコを相手にするとは思えないけど、トモコはいけない妄想をして少女のように体が熱くなり、毛布を頭の上まですっぽり被った。  あくる日も、トモコは我慢できずに、アキト先生の家へと足が向かっていた。 家族を裏切っているような後ろめたさはあったけど、まだアキト先生との間に何かがあるわけではない。そうトモコは自分に言い訳をした。  ところがアキト先生の家に着くと、大きな工事車両が何台も止まっていた。門のところにあった売家の立て札は無くなっていた。 「あの、この家、取り壊されるんですか?」 おずおずと工事業者と思われる人間にたずねるとその男は怪訝な顔をした。 「家?家はとっくの昔に取り壊されているよ。長年ここはこの塀しかなかったんだ。今日はここの塀を取っ払って更地にしにきたんだよ。」 トモコはわけがわからなかった。だって、昨日、ここでアキト先生に会ったし、中はあの頃と変わらず邸宅には調度品の数々がまだあったはず。トモコはちらりと、取り払われた門の中を覗いた。すると、そこには昨日あった邸宅は影も形も無く、ただただ荒れ放題の土地があるだけだった。 嘘っ!昨日確かに、私は。 しかし、どう見たってそこは荒れ果てた土地で建物があったのかすらわからないくらいに、背丈の高い雑草が鬱蒼と生い茂っていた。 トモコは勘違いだったと工事業者に告げ、その場を去った。 私は夢でも見ていたんだろうか。でも確かに私はアキト先生に会って、絵を描いてもらったんだ。トモコは急いで自宅へ引き返した。自分の部屋へ戻ると、隠しておいたスケッチブックをクローゼットから取り出して確認した。やっぱり。あれは現実よ。
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