第1章

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 でも、もうアキト先生は居ない。そう思うと、トモコ寂しくなって泣いた。泣いたらお腹が空いてきた。トモコはのそのそと体を起こすと、薬缶で湯を沸かし、戸棚からカップ焼きそばを取り出してお湯をそそいだ。あ、確か冷蔵庫にから揚げがあったっけ?カップ焼きそばを湯切りし、ソースを混ぜたら青海苔をかけた。そうそう、大事なものを忘れていたわ。冷蔵庫からマヨネーズとから揚げを出し、焼きそばの上からたっぷりとマヨネーズをかけてその上にチンした、から揚げを乗せた。 「やっぱりこれよね!」 そう言いながら、トモコはヤケ食いした。 どうせ、またあたしのくだらない一日が始まるのよ。食って寝て、食って寝て。これが私の人生!少しでも期待した自分が馬鹿だったわ。そう思いながらリモコンでテレビをつけた。 「本日のゲストは、画家の景山昭人さんです。」 玉ねぎ頭の司会者の女性が紹介すると、その人は真っ白な歯を覗かせて微笑んだ。 「えっ!」 トモコは箸をとり落とした。 景山昭人。まさにその人がアキト先生だった。 でも、アキト先生は変わっていた。テレビの中のアキト先生は年を適度に重ねたロマンスグレーの素敵なおじさまになっていたけど、面影で一目でアキト先生だとわかった。嘘、じゃあ昨日のアキト先生は誰? 昨日のアキト先生とは違い、オシャレなシャツを羽織り、以前にも増して素敵になった景山昭人だった。 「実は僕、初恋が遅くてですね。20代だったんですよ。しかも、その初恋の相手は絵画教室の生徒さんでね。まだ中学生だったんです。僕は当時悩みましたよ。自分はロリコンなんだろうかってね?(笑)トモコさんというお嬢さんでね。」 景山昭人は遠い目をした。 トモコは焼きそばとから揚げを同時に頬張りながら泣いていた。 「これがトモコさんです。」 そう言いながら照れくさそうに景山昭人はスケッチブックを見せた。 トモコは側に置いていた昨日のスケッチブックと見比べた。 そこには、今のトモコではなく、中学生の可憐で細かった頃のトモコが描かれていて、スケッチブックだけがセピア色に色あせていた。 トモコは箸を置き、焼きそばとから揚げを全てゴミ箱に捨てた。 私は何もかも、誰かの所為にしたり、最初から諦めたりして、自分からこの姿に成り下がったんだ。誰の所為でもない。 「私、痩せる!」
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