【2】高校生のお悩み、解決します

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 一  太陽が東からのぼるように徐々に明るい笑顔が見え始めたのは、いつも通りに仕事場の重厚なドアを押し開けた瞬間だった 「やあ、おはよう朝倉さん、元気にしてたかな?」  この占い師、出雲大社は自分の気分によって自分や人の呼称、人に対する態度が変わるという大人としていかがなものかと思われる性格と人格をしている。  が、特殊能力の持ち主で、悩みのある人の顔を見ただけで見抜いてしまうといった何も悩みのない人にとっては迷惑な能力を持ち合わせている。厳密にはその人の後ろにいる霊だが。  しかも、人の心の中まで読んでしまうというのだから、極まりなく大変遺憾に思う。   朝倉湖はこのカフェで働くことを新しい仕事としているが、今のところ、  猫の世話。  仕事場を掃除する。  コーヒーを淹れる。 これのみだ。 客人には『お告げカフェ』として通っていて、見つけられる人にしか見つけられない場所という意味で陰で人気になっているが、占い師本人曰く、『波長の問題だよね、そんなもん』だそうだ。  なんせ、頭の回転が速く、目の前の人を見ただけで全てが分かってしまうんだから、相談者の悩みをたらたら聞くといった面倒なことを嫌がる。  そしてこの新宿地下の穴倉を『仕事場』と呼んでいる。  玄関にあたるところは『入り口』と呼び、決して玄関とは呼ばない。  理由は、玄関とはつまり仏教用語であり、『玄』は奥の深い悟りの境地に入ること、『関』は入り口のことであり、つまりは『仏道』の道を指す言葉だからだそうだ。  よって、湖も入り口と呼ぶことを強要させられている。  入り口を入るとだだっ広いワンルームの広い部屋になっている。そこが仕事場で、部屋一面真っ白い。部屋の真ん中に丸いテーブルと椅子が置かれている。  その奥にキッチンがある。 「今日は午後に来客があるから、オレンジジュースを用意しておいてくれたまえ」 「オレンジジュースですか? カフェなのに? ああ、そうか、コーヒーが飲めない人もいますもんね。そうかそうか、そうでした」 「高校生の来客だから」 「高校生でもコーヒーくらい飲みますよ」 「君の頭は穴だらけのスポンジかな? もしくは穴の開いたれんこんさんかな? コーヒー一杯じゃすぐに帰っちゃうじゃないか。まずはジュース。話が終わってからコーヒーだよ」 湖は一刻も早く次の仕事を見つけてここを辞めようとうっすら思い始めた。
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