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「私一人じゃだめだ。ダレカがいないと。そう思いついたのはつい最近のことでした」
何を言っているのか意味が分からないが、ここは彼女の自宅で、この家の中に置き忘れたという携帯電話があるはずで、それを取りに来たのに中に入れないのはどう考えてもおかしい。
もう一度背のびをして家の中を覗きこんだ。やはり家の中に人の気配は感じられなかった。
「どうしても、入れないから、一人じゃダメだから……」
湖は高宮がもはや普通じゃないということはうっすら分かってはいるけれど、それを信じたくなくて違う方向へ持っていきたくなるのだ。もしこの考えが当たっていたら、高宮は……。
「靄がかかっていて入れない」
高宮は靄と言うが、湖にはまったく見えない。どんなに目を細めてみても、目をごしごししてみても、これでもかってくらい大きく開いてみても、靄なんてものは全く見えもしないしどこにもない。でも高宮はしきりに靄がかかっていると訴える。
擦るように一歩一歩前に歩きだした高宮の動きに鳥肌がたつ。
手を前に伸ばし足を擦る。そして視線は家の中にある。
湖の本能は『彼女に触っちゃいけない』と伝えている。
ごくりと喉を鳴らした。
「ひとりじゃはいれない。こいつといっしょなら……はいれるかもしれない」
「高宮さん?」
よだれを垂らしながら歩いてくるその足には力が入っていない。膝があらぬ方向に曲がっている。湖はそんな高宮を見て、反射的に体が大きく震えた。
「出雲さん。これってもしかしてその……(幽霊?)」
出雲大社の姿を探す。そして小走りに出雲大社の後ろに隠れた。最後のところはもう怖いので声にもしたくなかった。
「そうだね」
「そんなあっけらかんと恐ろしいことを(やはり幽霊だったのか)」
息を飲んだ。高宮が突如として消えたのだ。
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