232人が本棚に入れています
本棚に追加
さっきまでそこにいたのに、一瞬にしてどこにもいなくなってしまった。
「彼女、門に触ったね」
「門に触ったら消えるんですか?」
「そう。でもまだその辺に漂ってるよ。君が僕の後ろに隠れた後すぐにうつろな目になって家の中に入ろうとしたでしょう。高宮君、君、早めに僕の周波数に合わせた方がいいよ」
「ラジオみたいに言わないで下さいよ」
「ふっ。朝倉君。君の周波数は低すぎて誰もコンタクトできないからね」
やっぱり嫌味も忘れなかった。
『いくらやっても雑音や風が吹き荒れる音しか聞こえない。違う……私は死んでない』
「そんなこと聞いて無い。それに僕にとって君が死んでいようが生きていようが関係ない。今はまだ朝倉君に憑依しようとしても無駄だよ。さ、早く行こうか。君もそれを望んでいるから僕のところへ来たんでしょ? 君は行くべきところへ行かないと。ちゃんと確認しないといけないよね」
「出雲さん、今さらっと怖いこと言いましたよね。私に憑依しようとしてたんですか? しかも、まだって言いましたよね。どう言う意味ですか、まだって、どう言う意味ですか」
湖の声はもう掠れたものになっていた。もちろん出雲大社からの答えは、
「そうだよ」
何がそうなのか知れないが、きっと後で憑依されるのを示唆しているのだろう。
『だったら……』
耳をつんざく音に湖は思わず耳を塞ぐ。耳の奥に伝わる音は針のように鋭くて痛い。鼓膜の奥底の脳みそに直接伝わる感覚で耐えがたくおかしくなりそうだ。
「だから、憑依は無駄だって言ったでしょ」
指先から光を出しながら宙に文字を刻んでいく。そこにには高宮の姿が浮かび上がる。
高校の制服を着ていて、まっすぐにこちらを睨んで立っていた。
『そいつをよこせ』
高宮の腕が湖に向かって伸びてきた。
その腕は黒くて不気味で冷たい冷気が纏わり付いていた。
「君、面倒くさい霊だね」
更に文字を刻む。
光と音で辺りが白く明るくなった。
最初のコメントを投稿しよう!