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何かに弾かれたように飛び退いた高宮は目を白黒させて、出雲大社と湖を交互に見た。
高宮は今何が起きたのかわかっていなっかった。
「やっぱり全然気づいてないんだ。これは面白い」
と、出雲大社は余裕たっぷりに笑んでいた。
湖は最初に仕事場で会ったときからもしかしたら彼女はこの世のものじゃないんじゃないかとうっすら気がついてはいたけれど、考えると怖いから見てみぬふりをしていたが、今確実にそれが本物の霊だとまざまざと気づかされている。
高宮はもうこの世にはいなくて、あの世の住人で、なんらかの未練があってまだこっちにいるってことだ。
からっからの喉に無理やり唾を流し込むように飲み込んだ。
「今気づきました出雲さん。高宮さん、生きてないです」
「今頃気づくなんてほんとに君って際限なくあれだよね。あれってわかるでしょ?」
「ことば、濁してくださってほんとありがとうございます。私、今全身に鳥肌総毛立ちです」
最後まで言わないうちに、高宮の方を指さした。そして、そこに目をやれば無数の霊が纏わりついていた。
「こいつらが高宮君の魂を乗っ取ろうとしてるやつ。彼女、自分が死んだことに気づいてないから」
呆然と立ち尽くす高宮は、口をぱくぱくと開けたり閉じたりしていた。
自分の体を触って確かめて、『死んでない』ことを自覚しようとしている。
「高宮君、昨日君は何をしたのか覚えてるかな?」
「昨日は……昨日は……は」
ひたと目を上に向け考えてみるものの、なかなか思い出せないようで、髪の毛の中に両手を突っ込んでわしゃわしゃと掻きむしっている。
思い出せないのには理由があると出雲大社は言った。
『幽霊はね、過去のことは分からないんだよ。でも、そのかわりに未来のことは分かる』
出雲大社の言うことは突拍子もない。
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