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七
「やっとひとつになれた」
自分の口から発せられているのが高宮の声だということに気がついたけど、焦る感覚の前に思考はシャットアウトされた。
「さあ、これで見つけられる。アノヒトの物、捜し出せる。あなたのこの体があれば私の思い残していることができる。そしてこの体を私に委ねたら、私はまだまだ生きられるんだ」
擦るような歩き方で前に手を伸ばし、進む。
耳に届く音はかさついた葉の掠れる音。
記憶を呼び起こさせる。
土は湿っていて、血を吸い取ったようなシミが点々と染みついている。この血の臭い、どこかで嗅いだことがある。
懐かしい臭いに甘く溶けた肉の記憶。
口に入れた瞬間に血が溶けてなくなった。そうだ、私は血を飲んだ。生温かくて甘くて癖になる味だったのを覚えている。
舌舐めずりをした。喉を鳴らした。生唾を飲んだ。
血をワイングラスに注いだ。それを冷やして飲んだけど、やはり温かい方がおいしかった。鼻に抜ける血の後味はブルーチーズの味に酷似していたのを思い出した。
待って、違う。そうじゃない。
私はそんなものは飲んだこともないし、飲みたいとも思っていない。飲んでもいない。
だって、それは私の記憶じゃない。
血の味はとてもやみつきになる。でも、時間が経ったものはダメだ。ぬめりが出てきてしまう。
だから私はなるべく時間が経たないうちにすべてを飲み込もうとした。
喉を掻っ切って、あふれる血をこぼさず飲むために傷口に唇を押し当てた。
『美味しい』
「そんなことしない。血を飲むなんてそんなこと、したくない」
『私と共に……』
高宮さんだ。私の中に高宮さんがいる。頭を抱えた。首を振った。舌うちが聞こえた。なんで? だってさっきまで私、誰かと一緒にいた。
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