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「高宮君は血液を飲むのが趣味だったから、君と言う肉体を手に入れたらまずは懐かしの血液の味を欲したんだろうね。でも相手が悪かった」
くすっと笑う出雲大社は湖から遠く離れていて、そして更には森の入り口ぎりぎりのところに立っていて、どういうわけか一歩も入って来ない。
「さあ、遠慮なく登って取ってきてくれたまえ」
見上げる先、目的の電話がぶらさがっている。風にあおられ左右に振られている。早く取りに来いとばかりに煽っているようにも見える。
『行くな!!!』
どこか遠くから薄く声が耳の奥に届くがもう怖くない。その声はもう湖の中には入って来られない。
首をかきと鳴らし、指の骨を鳴らす。爪を木に食い込ませる。靴と靴下を脱ぎ、両足を木にかけた。
ジャッキーの竹登りのビデオを擦り切れるくらいまで見て覚えた登り方だ。実家の庭の柿の木で何回も練習した。手足の位置、指の開き具合、登るテンポ、全てを頭の中で描きながら登る。
邪魔をするように顔の前を強風が遮るがきっとそれは高宮だ。
その風を更に邪魔するように風が吹き付ける。きっと携帯電話の持ち主だった人だろう。
もう少しで届く。がしがしと登った湖の目は獲物を捕らえた猫のようにはっきりとしている。そんな私の意識を変えさせるものが眼下で動いた。
無意識にそちらへ目を向けると、
土の中から生えるようにヌボと立つ二体の黒い人。一人は男、もう一人は女だ。寄りそうように立ち、じっとこちらを見上げていた。
足の裏まで鳥肌が立った。
腐った臭いは敏感な嗅覚にダメージを与える。手で鼻を何度もかいた。かきながらも目の前の電話に手を伸ばす。
もう少しだ。相変わらず強風は吹きすさぶが気にしている場合ではない。これさえ落とせば終わる。
猫のように四つん這いになって慎重に進む。といっても湖は人だ。猫のようにしなやかにはいかない。
一歩踏むたびに風が邪魔をする。湖を落とそうと体に体当たりしてくる。
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