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「さ、帰ろうか」
「まだ終わってません」
「まだ何かあるの?」
「……なぜ出雲さんは森の中に入って来られないんですか」
出雲大社はゆっくりと頷き、
「万が一にもあの森が私有地だった場合を考えると、仮にも森の周りを檻とかで囲まれていた場合、僕が入ってったら不法侵入罪で問われてしまうかもしれない。だから君だけ入ってもらったんだよ」
「……私有地だったんですね」
「そうともいう」
「自分だけ助かるつもりだったんですね。だから私に森の中に入って行かせて、自分は公道のところで待っていたと。そういうわけですね」
「勘違いしないでくれたまえ。もし僕が一緒に捕まったら誰が君を助け出すんだい? そうだろ。僕しかいない。じゃあ聞くが、仮に僕が捕まった場合、君に頼めるかな? できないだろう」
「……それが理由なんですか。それに、仮の話でもなんでもないじゃないですか」
「私有地は入れないでしょう。賠償問題になったら困るから僕が機転をきかせて彼を呼んだんだよ」
「警察からも巻き上げてるんですか」
「巻き上げるとは失敬な。彼に情報を与えただけさ。お互いウィンウィン」
「なにがウィンウィンですか。私、殺されそうになったんですよ」
「それはない。僕がいるから」
「っ……」
快晴の青空のような顔にこの上なく綺麗で真っ白い雲のような笑みを浮かべている出雲大社は『それでほかにまだ何か』と言いたげに見下してくる。
「この件は本野優子が全てを引き起こした張本人で、彼女は殺され、殺した男は彼女に憑かれながら警察の手に渡った。本野君も消えてなくなるのは時間の問題だし、あの二人の高校生は光となって行っちゃった」
天を指す指を追えば、うっすらと光の粒が上に上がっていくようなものを見た気がした。
いつの間にか黒猫の影が切り株の上に現れていて、どんな表情なのかはしれないが、尻尾をぱたんぱたんとやっていた。
切り株の足元に申し訳なさげに咲いている緑の葉が我関せずとばかりに風に揺れていた。
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