寂れた裏庭

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佳梛達、委託のクリーナースタッフ=つまり掃除する人間、の休憩時間は短い。 紙面上は1時間あるけれど、実際はお弁当タイムが30分、呼び出しに備えての待機が30分、交代でとることが暗黙の了解となっている。 休憩中だからって誰も汚さない、とは限らないから。 上司曰く、「仕方がない」らしい。 休憩中のクリーナーをわざわざ呼び出して、掃除を待つぐらいなら、雑巾一枚で拭けば済むことなのに。 と、思う呼び出しも多い。 決して口には出せないけれども。 クリーナーは病院のスタッフではなく、クリーナー専門機関に委託されているから、派遣先の職員の機嫌を損ねる訳にはいかない。 逆に、職員は委託クリーナーだから、遠慮なく注文もクレームもつけてくる。 「立場弱いよなあ…。」 「あら、クリーナーさん、ちょうど良かった。今電話しようと思ってたのよ。 3マル1(301)号室の患者さん、また大暴れして、点滴やら食事やら、ばらまいてるのよ。 ちょっと行ってもらえる?」 3階内科病棟の前原看護師長はカルテから、顔もあげずに言う。 それはお願いではなく、命令。 「はい。すぐ行かせていただきます。」 間違っても「げっ」とか、「いや」とか、否定の言葉を言ってはいけない。 この病院で働くようになって半年。 掃除が苦手な佳梛も、そろそろ仕事には馴れてきた。 最近のこの業界の進歩は目覚ましいもので、こんな佳梛でも、数々の汚れに対し、事細かに記されたマニュアルと、薬品と掃除道具で、ほぼ完璧に仕事がこなせてしまう。 マニュアルを覚えるのは大変だったけれど、 「迷ったら、とりあえずコレ。」なんてのもあって、ホントとりあえず何とかなってたりする。
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