寂れた裏庭

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実際、佳梛はまた病院で働きたかった訳じゃない。 避けようとして、わざわざ始めての職場に飛び込んだのに、派遣された先が病院だったのだから、もう、どれだけ縁があるんだろうって思う。 けれども、新たな就職先を見つけた時点で、実家を出て独り暮らしを始めた身の上では、派遣先がどこだろうと、簡単には引けない。 病院っていうのは男性スタッフもいるけれど、間違いなく女の園。 白衣の天使も白衣を脱げばただの女。 つまり、化粧で化けた皮一枚下で、嫉妬やら妬み・欲望が渦巻いてる。 目をつけられたら一貫の終わり。 だから、基本、化粧はしない。 長い髪は無造作にくくり、顔の半分は大きなマスクで隠してる。 身なりを構う余裕のない佳梛にはそれでもちょうど良かった。 あれから2年経つ。 もう、なのか、まだ、なのか、よく分からないけれど。 最初は呆けたように、時間だけがただ過ぎて半年。 それから前に進もうともがいて半年。 就職情報誌で、仕事を探しても面接や書類審査でおとされ続けて、ようやく今の職場に拾ってもらってから、研修期間が3ヶ月。 色んな職場をたらい回しに3ヶ月。 ほぼ次の現場でで落ち着くと言われて、兄のお嫁さんと入れ替わりに実家を出たのが半年前。 つまりこの病院で働いて、半年になる。 少なくともここに来てからの半年間は、 上手くやれていると思う。 あの男の呪縛からも。 きっともう解放されてる。 未だに奈落の底に堕ちていく夢を見ることも、思い出すだけで簡単に思考が捕らわれてしまうことにも、蓋をして。 心の奥底に押し込んでいるから。 もう大丈夫…。 毎日、鏡の中の自分に言い聞かせては、夜を迎える 夜は長くて隙だらけだから、 無防備に迎えるには怖すぎる。
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