じいちゃんとばあちゃん

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 じいちゃんと長年連れ添ったばあちゃんは躾や昔ながらのしきたりに厳しい人だった。 上京する直前にばあちゃんが僕に言った。 「いいか。食べるものだけはケチケチするな。大きな家に住まなくてもいい。キレイな服を着なくてもいい。だけどな、食べるものだけはいいものを食べなさい。食費を節約することだけはやっちゃいかん」 この教えだけは今でもずっと守っている。厳しかったけど、じいちゃんと同じで誰にでも優しいばあちゃんだった。  ばあちゃんは脳の病気で手術を受けてから、手足に麻痺が残って不自由な生活を余儀なくされていた。  じいちゃんは家族の中でも特に献身的にばあちゃんのお世話をし続けてきた。少しでも長くばあちゃんと共に生きることが、じいちゃんの生きがいだったのだろう。それがじいちゃんの支えになっていたおかげか、じいちゃんは歳のわりに健康的だったし、ボケることもなく、車の運転もこなしてばあちゃんを病院へ送迎していた。 そんなばあちゃんが平成十八年に他界した。  誰もがじいちゃんを心配した。ばあちゃんを支えてきたと同時に、じいちゃんにとってもばあちゃんが生きる支えだったのだから。  じいちゃんがどれほど悲しかったのかは本人にしかわからないことだ。けれどじいちゃんは人前でそんな素振りは見せなかったように思う。 じいちゃんは旅に出た。  いつかのばあちゃんの法事でじいちゃんが言っていたのを今でも覚えている。 「ばあちゃんは死んでいないと私は思っている。ばあちゃんは長い旅に出ているだけだから。だから私もこれからはいろんな場所へ行こうと思う。どこかにいるばあちゃんを探す。そんな旅です」  じいちゃんはもともと旅行が好きだった。僕が小学校のときだったろうか。気づいたらヨーロッパに旅に出ていたこともあった。 そんなじいちゃんの、ばあちゃんを探す旅が始まったのだ。これがじいちゃんにとって第二の生きる支えになった。
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