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じいちゃんは旅先の出来事を紀行文として執筆していた。地元の新聞なんかに寄稿して何度か掲載されたこともあったようだ。
僕ががそれを知ったのは葬儀でのことだった。
もともと歴史にも興味があって、我が家の歴史を調べては家系図を整理していたことは知っていた。
けれど旅行記を執筆して、しかも投稿までしていたとは初耳だった。ばあちゃんが他界したころの僕は、就職が決まって実家に帰る機会も少なくなっていたからだろう。
だが、それを聞いた僕は納得と共に、後悔と決意の入り混じった不思議な感情に陥った。僕自身も二十歳の頃から演劇の台本や小説に興味を持ち、今もそれを趣味として生活している。
文章を書いて人を楽しませるという血が、じいちゃんから僕へ受け継がれているような気がして嬉しかった。じいちゃんはやっぱり僕のじいちゃんだったのだ。
もっと早くこのことを知っていたら、もっといろんな話しができただろうに。
無名なノンフィクション作家のじいちゃんと、無名なフィクション作家の僕。
自分の書いた物語で人を楽しませたり、自分のことを知ってもらいたい。そんな気持ちを通じて、もっともっと語り合えることがあったはずだった。
そんな後悔をすると共に、そんなじいちゃんを知ってもらいたいという気持ちが、今僕ににこの話しを書かせている。
そして、そんなじいちゃんの血が僕に流れているという事実が、僕にとって物語を書き続けるという新たな原動力になった。
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