1人が本棚に入れています
本棚に追加
青白い魂は恐る恐る問いかけてみた。
それを遮るかのように澄んだ声。
「名は、なんといいますか?」
「へぇ?ああ、名前。たけし」
「たけし」
眉をひそめて顔を見合わせる2人。
「やはり・・・」
「そのようです。帳簿を持ってきてください」
人は大柄な男を促した。
「あ、あの……」
「申し訳ない。名を名乗っていませんでした。私は、蓮水(れんすい)。人の魂を扱う者。人間界では神と呼ばれているようです」
落ち着いた丁寧な口調で自己紹介をしてくれた。本当にきれいな男性だ。
金色の長い髪がさらさらと風になびく。細い指が目鼻立ちの整ったきれいな顔にあてがわれる。たけしはその人に話そうとしたが……
「またせたな」
「ひっ!」
分厚い本を片手に男が本棚の後ろの扉から出てきた。たけしは思わずその迫力とやけに低く響く声にびっくりして声をあげてしまった。
「自己紹介をしてあげてください。怖がっています」
「ああ。そうだな。俺は、青深(せいしん)。人の生死を扱う者。人間界では閻魔大王と呼ばれている」
「えっ!!」
すらりと閻魔大王は答えた。たけしが想像していた閻魔大王は赤い肌に黒くて長いひげ。角も大きく尖っている怖いイメージ。しかし、たけしの前の大王は、肌は人間の色をしている。そして、何といっても角がない。普通の人間にみえるのだ。
「青深。そんなに力まないで下さいよ」
「うん?ああ、そうか……すまん。驚いただろ」
青深という閻魔大王が大きな体を揺らして笑うと今にも地響きがしそうだ。
2人のやり取りを見ているたけし。
相変わらずふわふわと宙を上下していた。
「では、行きましょうか」
「どこへ?」
「お前の世界だよ」
そう言うと、2人は青白い魂のたけしを連れて、入って来た扉のほうではなく壁に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっと説明をしてくれ!」
「あっちに行ってからだ」
「・・・っていっても、目の前は壁です!!!!!」
「大丈夫ですよ」
その言葉と一緒に3人は難なく壁を抜けてしまった。
抜けた先は足元にたくさんのビルや家が立ち並び真っ青な空が3人の頭上にあった。
「へっ?」
「あなたの世界ですよ」
「人間の世界だ」
そういわれたたけしは、マジマジと辺りを見渡した。
眼下には、見覚えのある光景があった。
それもそのはず。
毎日大学に通っている道なのだから。
「なになに、トラックに飛び込んで自殺」
帳簿を見ながら青深はつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!