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何気なく携帯の画面ロックを外して・・・、そして目を疑った。
『着信186件、メール72件・・・』
「え!・・・って。あ、あれ!?」
「どうしたんだい?」
「携帯電話が電池切れになっちゃったみたいで・・・。」
手のひらの中には、真っ黒な画面になった携帯電話。
一瞬だけ映った画面上には、人生で見たことがない通知が出ていた気がする・・・。
思わず目を擦りながら、首を傾げる。
「疲れているのかな・・・。」
するとそれに応える様に、卓さんが私の肩を抱き寄せる。
そして私の頭を自分の肩に乗せると、ぽんぽんと撫でてくれた。
「たくさん連れまわしてしまったからね。空港まで寝ていてもいいよ?」
「ううん、大丈夫です。だって起きてないと勿体ないから。」
「ん?」
「とっても幸せだから・・・。ちゃんと起きていて、卓さんとの時間を楽しみたいの。」
「そうか・・・。」
卓さんは目元を和らげると、掠める様にキスをする。
「!」
慌てて運転手の様子を窺ったけど、運転手はマイクで誰かと会話をしていて、何も気が付いていない様だった。
「もう。」
卓さんを睨みつけると、卓さんが苦笑する。
「可愛いことを言った美夏のせいだよ。」
「なっ・・・。」
顔が急激に熱を帯びる。
その頬を卓さんはついっと撫でると、耳元でゆっくりと囁いた。
「美夏が同じ気持ちで、嬉しいんだ。」
「え?」
「私も美夏と一緒の時間を楽しみたいと思っていたから、無駄にならずに良かったよ。」
「何がですか?」
卓さんはどうやら答えてくれるつもりはないらしく、曖昧に笑う。
「あと、30分後には分かるよ。それまではタクシーの旅を楽しもうか。」
「・・・はい。」
「機嫌を直しておくれ。ほら、あそこに見えるのは・・・。」
卓さんが窓の外を指さす。
最初はちょっとむくれていたのに、卓さんの観光ガイドが面白くて、ついつい話に引き込まれてしまう。
夜のシンガポールは、夜とは思えない程明るくて、涼しいタクシーから見る街はとても活気に満ちていた。
そんなこんなであっという間に時間は経ち、タクシーは空港に到着する。
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