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◆◆◆
「んん・・・。」
うっすらと目を開ける。
すると、薄暗い室内の中、卓さんがシャツに袖を通す姿が見えた。
「すまない、起こしたね。」
「ううん。」
頭を振るけど、実際は体が少しだるい。
そのまま何となく卓さんを見ていると、着替え終わった卓さんがベット脇に腰をかけた。
大きな手が、私の髪をゆっくりと撫でる。
「もう少し寝ていなさい。」
「大丈夫だよ。あとどれ位で着くのかな。」
「3時間位だね。」
「そっか。」
卓さんの手がとっても気持ち良い。
もうちょっとだけそのぬくもりを味わいたくて、起き上がるのを中断して卓さんを見上げる。
僅かな灯りに照らされて、卓さんの端整な顔立ちがより際立って見えた。
『幸せだなあ。』
暖かな気持ちが胸に満ちていく。
大好きな人が、私を好きと言ってくれる。
それどころか、これから一生傍にいようと言ってくれている。
それは、とても単純だけど、奇跡の様な出来事。
これから卓さんも私も老いていくだろう。
しわくちゃになって、介護なしには生きていけなくなってしまうかもしれない。
もしかしたら事故にあって、半身不随とかになってしまうかもしれない。
それでも。
どんなことがあろうとも。
誠実で、優しくて、自分に厳しい、それでいて子供っぽい所もあるこの人と、ずっと一緒に生きていきたい。
楽しい日は一緒に笑い合って、悲しい日は寄り添って涙したい。
そんな日々を、ずっと、ずっと過ごしていけたら・・・。
「卓さん。」
「なんだい?」
大好きな漆黒の目が、私を見つめる。
胸に溢れた想いを、そのまま唇に乗せる。
「私、よいお嫁さんになれるか分からないけど・・・、卓さんを幸せにする様に頑張ります。」
卓さんの目が僅かに見開かれる。
それから、その目が優しく細められた。
「美夏は分かっていないな。」
「え?」
「美夏がいるだけで、私はもう十分幸せなんだよ。」
「・・・っ。」
卓さんの顔が近づいてきて、私を覗き込む。
間近で見る卓さんの表情は、今まで見たことがない程優しい。
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