極東メランコリー

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 他力本願。浮ついた思考。無分別な欲望──他人の気がしないな、兄弟。  悪夢? 馬鹿をいうな。こいつは予定されていた現実だ。  黒い雨が大地に墓穴を穿つ。垂れ流された汚穢で満たされた海の上を昏い風が緩やかに滑っていく。亡国への道を歩きはじめたおれたちに未来なんてものが残されているわけないだろう。  慌てるな。死に場所を決めるぐらいの時間ならまだある。絶望を堪能したっていい。なにかに期待することはやめろ。叶わないことをいくら妄想したところで糞の足しにもならない。そんな無駄なことに頭を使うぐらいなら、楽にくたばる方法でも考えたほうが何倍もマシだ。  怖いか? 逃げだしたいか? 奇跡を信じたいか?──虫がいいにもほどがある。今日まで好き勝手にやってきたんだ。貴様の身体に侍の血が流れているなら、今ここでその腹を割け。  神の怒りは不義を以て真理を阻む人の、諸々の不敬と不義に対(むか)いて、天より顕わる。  愛すべきもの、忌むべきもの。そいつはほかの誰でもない──おまえ自身だ。
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