蒙昧冥利

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 権力は正義だ。冑蟲がいった。蟋蟀(きりぎりす)もいう。賢さは豊かさだ。間違いじゃない──頷いた。美しい鳳蝶(あげは)はなにもいわない。それはおれが蟻だからだ。  おれはなにをするものでなんのために生まれてこなきゃならなかったんだ? その理由すら知らされることなく死ぬまで生き続けなくちゃならないのはなんでだ? 誰がそいつを決めた? 主か? 神か宇宙か? それともお前か?  頼む、教えてくれ。光の世界はどこにある? どうすればそこへ行ける? 死んで地獄へ落ちるのはかまわないが、生きてる間までもそいつを味わいたくはない。そこは楽園なんだろう? 空があるんだろう? 奴隷をしなくて済むんだろう?  にわかに現れた渦巻き模様──無邪気な殺意。肌色の塊がおれを押し潰す。脆い躯はすぐにぶっ壊れた。生きたかったのかどうかも今となってはわからない。黒々とした靄がおれを包む。悪い気分じゃなかった。
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