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「やーっと、認めたわけか」
七月二十三日。
藤次郎の三十五回目の誕生日の翌日。
とは言うけれど、生まれたその日も誕生日だから、正しくは三十六回目だと思う。
「恋する乙女みたいな目してたくせに、全く気付かないんだもんねー…」
「あたし、そんな目してた!?」
「も、バッチシ。間宮次長が課に来る度に、目、輝かせてたもん」
「うそ…」
恥ずかしい。
真里が気付いてたってことは、藤次郎もきっと…
「心配しなくても、あんたらはニブチンコンビだから。次長だって気付いてないよ」
「…よかった…」
「に、しても、」
デスクの上で人差し指を遊ばせながら、ニヤニヤとあたしの顔を覗き込む。
「社長令嬢といい、この前の合コンでの彼といい、どうするつもり?」
「そ…れは、」
確かに、社長令嬢は強敵だし…というか、そもそも、藤次郎は彼女と結婚する気満々だ。
合コンでの彼はあたしから連絡先を聞いてしまった手前、それっきりにするわけにもいかない。
「なんでこうなっちゃうかな……」
「自分のケツは、自分で拭いなさいね」
「…下品な言い方」
財布の中に眠ったままの、一枚の名刺。
“麻宮東悟”、と書かれたそれは、いつかのコンビニでもらったスクラッチカードに擦れて、少し黒ずんでいた。
「んんー。んんー。」
「鬱陶しい。早くそのトレイに山積みの回覧文書、こっちに回してくれない?」
「自分から聞いておきながら…」
薄情な同期め。
真里には、藤次郎と関係を持っていることを言っていない。
彼女のことだから、軽蔑、はしないだろうけど、面白がりそうだから。
んーん、やっぱり、違う。
心配させちゃいそうだから。
真里は、優しい子だから。
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