Ep:3‐奪われたもの

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「痛てぇぇなぁぁぁぁっ!!」 ブォンッッ!! 立ち上る砂煙を吹き飛ばし、そこに現れたのはバラシィで 咲「!! (黒羽の直撃を受けて…まだ…!)」 咲はすぐさま立ち上がり、真剣を構えた。 バラシィ「くそがっ…!やってくれたナァッ!!」 怒り心頭といった具合に切れ散らかしながら、バラシィは咲を睨みつける。 咲「っ…」 昨日とは違い、力のセーブもなかった自身の必殺技を受けてまだ立ち上がるバラシィに驚きつつも、咲はしっかりと、バラシィの首筋から腰にかけて残る傷口に注目しており バラシィ「"これ"がなきゃ危なかったネ…」 そう言って大斧の柄を撫でるバラシィ、そんな彼女の傷はすでに、左額の角と同じような色の鱗に覆われつつあった。 咲「…まだ気づかないんですか? あなた、そのままじゃ魔物になりますよ…」 そんなバラシィの現状を見て、咲は諭すように声をかけるが バラシィ「あたしが魔物ニィ? ふんっ、冗談ならもっと上手いこといいナ」 ここまで身体が変化しているのに自覚がないのか、バラシィは鼻で笑い バラシィ「あぁ?」 その視界に、レオンに寄り添う小森を捉えた。 小森「ひぃっ」 …ザッ 咲「あなたの相手は私です」 バラシィに目をつけられ怯える小森の前に、あえて立ちはだかった咲はそう言ってバラシィからの注目を自分に向ける。 バラシィ「アァ、それはそうだ。 お前はあたしがグチャグチャにしてやる」 「ただ…」と続け、同時に咲の足元に魔法陣が浮かび上がる。 咲「!」 ズアッッ!! その魔法陣からは水で形成された触手が召喚され、触手は咲を絡み取ろうと襲いかかった。 咲「ふっ!」 ザンッ!! しかし、咲は一瞬で小さく飛び上がりながら触手を避け、足元に真剣を奮い、その水の触手を一撃で切り払ってみせた。 咲「そう何度も捕まりません」 バラシィ「だろうネ」 まるでバラシィは、咲がそうして触手を避けることを予測していたかのように呟き ブンッ!!―――ドシュッッ!!! 咲「!?」 バラシィ「それはプレゼントだ」 いつの間にか取り出していた槍を、咲が飛び上がり空いた空間へと投擲しており 小森「………え…?」 ゴポリッ と、口から大量の血を吐き出す小森。 咲「小森ニ士っ!!?」 バラシィが投擲した槍は、小森の右胸を貫き、彼女の身体に刺さったまま静止していた。 咲「そんな…」 誰が見ても明らかな致命傷に、咲はどうする事も出来ず 小森「た…すけ……」 小森は、ゴポゴポと血を吐き出しながら、真っ赤にそまった手を咲に伸ばす 咲「ぁぁ……」 目の前で今にも息を引き取ってしまいそうな小森に、咲は小さく身体を震わせる。 バラシィ「大袈裟な……"起きナ"!!」 そんな様子を見て、バラシィは誰に向けてなのかそう叫び 瞬間 ブババッッ!! 咲「え…!?」 小森を貫く槍から黒い魔力が雷のように走り始め 徐々に小森の体を包んで行き 咲「な…に……?」 ギュッッ!! やがて傷口周辺に収束して収まると ガッ!! 咲「!!」 先程まで死にかけていた小森は、自身に突き刺さる槍の柄を手に取り ズッ…グチャ…ググ……ビシャッッ!! 貫かれた方向へと自身で引き抜いた。 その途端に、赤く染まった傷口はみるみる修復し 「………あァ」 コキッ と、首を鳴らしながら、ダルそうに声を上げたのは、他ならぬ小森で 咲「…????」 目の前で起こっていることが理解できず、咲が固まっていると 小森?「最悪の目覚ましだ」 小森は自ら立ち上がり、目の前で狼狽える咲へと視線を向けた。 咲「!!」 そしてその小森の目を見た咲は、すべてを理解する。 小森「"今度"はお前が獲物カ?」 真っ赤に染まった白目、小森の黒かった瞳孔は金色に変色し縦長の、まるで猫のようになっており 更にその訛ったようなカタコトと、静かに渦巻く魔力。 咲「それ…は…」 最後に咲が視線を向けたのは、そんな小森が持つ、嫌にメカニカルな槍だった。 バラシィ「ビリーブ・ウェポン…だったカ?」 背後から大声で、分かっていて尋ねて来たのか、そんな事はどうでもよかった。 ただ、目の前の彼女は 小森?「…いつまで見てんダ…テメぇ」 咲の知る小森ではなくなっていた。
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