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「もう一人の僕?」
「そうだよ、僕はもう一人の君」
『僕』の話した言葉の意味は全く受け入れられないけれど、目の前にいる『僕』が自分とは違う生き物だということは理解した。
他者に与える印象が大きく異なるのだ。
全く同じ姿形をしているのに、彼は僕よりずっと生き生きとした表情で、力強い声で、自信に溢れているように見えた。
彼は一方的に話を続ける。
「僕はこの世界の裏から来たんだ。 君があまりにも不甲斐ないからさ。
僕と同じ顔、同じ能力、スペックは全て同じなのに、君はゲームが下手過ぎる」
「ゲーム?」
「そう。僕は裏で君よりずっとうまくやれてる。
クラスに友達は多いし、女の子とだって冗談を言い合ったりする。
君が入部を散々迷って結局入らなかったテニス部にも所属してる」
「テニス部・・・」
信じられない。
テニス部は男女ともに明るくてルックスも良い目立つタイプの生徒ばかりが所属している。
僕は子供の頃から両親に教えてもらっていたからテニスの腕だけはそう酷いものではない。
唯一の自慢といってもいい。
だけど、部員達の華やかなオーラに気後れしてどうしても入部する勇気が出なかった。
僕は別にイジメにあっているわけじゃない。
クラスのみんなはそんなに幼稚ではない。
ただ、誰からも好かれていないだけだ。
友達もいない。
女の子からは挨拶さえもしてもらえない。
いてもいなくても変わらない空気のような存在だ。
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