第1章

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 教室の戸を開けたら、そこには彼と出会った頃の風景があった。  今日は、中学二年の頃から十年間想い続けた男の子の結婚式の日。もちろん相手は私ではない。招待されていたのだけれど、当日になって気が進まなくなり、失礼を承知でキャンセルさせてもらった。  小雨の降る中、式場では今頃受付が始まっている頃だろう。  話を戻すけれど、教室の戸を開けたら、そこには彼と出会った頃の風景があった。出会った――というか、初めて話したと言った方が正しいけれど……。しかし、なぜこんなことになっているのか、私にも分からない。いや、正確に言うと教室の戸を開けたところまでは分かる。  彼に出会った頃が愛おしく感じて、休日の母校に忍び込んで、当時毎日楽しみに開けていた教室の戸を開いたのだ。彼と初めて会話をした日も雨だったから……朝起きて思い出してしまったのだと思う。まあしかし、当時は台風の影響で強い雨だったのだけど。  今の私は、教室の外に見える大雨と、窓際でひときわにぎやかな中二の彼を見ていた。教室の中はどれもこれも、誰も彼も当時のまま。夢でも見ている様で……。 「来たな! ワルプルギスの夜!!」  空に向かっていったい何を言っているんだこいつは? 私の彼に対する第一印象はその言葉に尽きる。当時は中二病なんて言葉は無かったけれど、今思えば、まさしくそれだった。  しかし、そんな意味の分からない言葉を言いつつも、クラスの中心として人気者だった彼に憧れたのは事実だった。興味を持った。だから話し掛けた。 「ワルプルギスの夜ってヨーロッパのお祭りでしょ? 何言ってんの?」  今の私も、当時の私と同じ言葉を彼に投げかける。心なしか、当時のドキドキが戻ってくる。今なら分かる。この時が恋に落ちた瞬間なんだと。  その後、彼に連れられて校庭に出て行き、大雨の中散々魔女の話や儀式なんて言う訳の分からない妄想を力説されたものだ。暴風警報は出ていなかったにしても、教室がにぎやかになる程度には天気は激しかった。当時の私は、そんな中よく黙って聞いていられたものだと感心する。――今の私にできるだろうか?  彼に導かれるまま教室の戸を開けて廊下に出る。
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