第1章

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 海の家の扉を開けた私は、夕暮れの砂浜を歩く彼に駆け寄った。  無意識に――いや、とても意識していた。この時は、彼に思いを告げようと決心した日だ。忘れようがない。何度も思い返し、その時のシチュエーションが体に染みついてしまっているほどに。  この日は、大学生活最後の夏休みで、私の気持ちを知ったサークルの友人たちの計らいで二人きりにしてもらったのだ。告白するから――と。まだ付き合っていなかったのかと驚かれたことも記憶に新しい。それでも、皆私の告白が成功すると信じて疑っていなかった。  少し前を歩く彼。  斜め後ろ、照れくさくて俯いて歩く私。  今や、結果が分かってる私。それでも全く同じ緊張で、変わらない行動を取れる私は、本当に愚かなのだろう。しかし、このドキドキは無くしたくなかった。違う行動で上書きしたくなかった。そんな言い訳で良いかな? 夢から覚めた未来の私は納得してくれるかな? 「こうやって二人で歩いてると、ぼくたち恋人みたいだよね」 「え、ああ、うん。そうだね」 「女の子って、恋人になったら何がしたいって思うものなのかな?」  当時の私は、この質問の真意なんて分かっていなかった。だからかもしれない。突拍子の無い事を口走ってしまったのは。 「君と手をつないで散歩とかしたいんです」  彼の裾を摘まんで引き止めながら言い放った。結果は分かっている。でもドキドキしている。彼はしばらく私の言葉の意味が分からなかったらしく、振り向いたまま静止していた。この台詞が告白だと理解するのに時間がかかったみたいだった。そりゃ、脈絡もなく突然こんなことを言ったら困るだろう。  しかし、私の表情を見て察してくれた。そして――。 「ごめん。ぼく、昨日からバイトの子と付き合い始めたんだ」  うん。――知ってた。  そこから、二人は一言も話さずにレンタカーを停めている駐車場まで歩いた。言っておくが、もちろん当時の私は彼がバイトの子と付き合い始めたなんて知らなかった。それはそれはショックだった。一日でも早く告白していれば可能性があったのかと後悔もした。  だって、今日彼が結婚する相手は、その時に付き合い始めた子なのだから。  無言の二人は、海浜公園の出入口アーチをくぐる。すると、またしても景色が変わる。
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