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「ん~やっと部活だなぁ。おれはこの時間の為に退屈な授業を耐えられるよ」
「正確には研究会だけどね。授業は捉え方じゃない?不必要な事に思えるけど、いつかその知識が必要になる時が来る。と、思い込めば楽しく授けられるよ」
「武士みたいな奴だな、お前は」
「まあね」
授業が終わり放課後、僕達は文学研究会。略して文研に向かいながら廊下を歩いていた。研究会といってただ文学小説や娯楽小説、論文を読んでいるだけで文学の真理を捉えるといった高尚なものではない。メンバーは山田に僕、それに亜美ちゃんも居てもう一人僕にとって天敵と云える人物が居るのだが、思い出すのも嫌なので省いておく。五人に満たない文研は正式な部活にはならず、部費も無い為図書館で借りた本を読んでいるだけのフリースペースのような空間である。
「山田」
「あんだよ?」
「今朝の僕の妄想覚えてる?」
「あー、人間椅子と人間机な。お前のそのどうかしたくらいの妄想をおれも一度くらい見てみたいもんだよ」
「うん。…数学の時の九条先生がさぁ、虫になってたんだよね」
「はぁ?お前、あの時は問題解いたり普通だったじゃん」
「そうなんだよ。九条先生だけが、妄想というか…まあとにかく虫だったんだよ」
九条虫の詳しい外見。脚の感触などを山田に話した。
「なんだそりゃあ?…お前、もしかしてなんか変な薬やってる…?」
「やってる訳ないだろっ?…まあ、いいや。きっと疲れてるんだよ。昨日夜分まで、カフカの変身を読んでいたからかもしれない」
「ああ、起きたら虫になってたってやつな。お盛んな妄想力な事で」
そうだな、疲れてるんだ。今日はセルバンテスのドン・キホーテでも読んで気を休めよう。文研の扉を開けると僕達の進行を阻むかのように、黒髪ロングの眼鏡美人黒川泉が本を読んで椅子に座っていた。僕の天敵である。
「あら?こんにちは。哀川くん」
「ああ…こんにちは」
「おい、お前、邪魔だよ。何でこんな所で本を読むんだよ。奥で読め、奥で!」
「山田、誰に向かって言っているのかしら?もしかして、わたし?文研の会長であるわたしに向かってそのような事を言っているのかしら?」
「あ、ああ…そうだよっ!ってか何でおれはくん付けじゃないんだよ?」
「山田。口の聞き方に気をつける事ね。会長の一存で貴方を退部させる事なんて容易いのだから」
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