第1章

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  文研を作ろうと言い出したのは山田だった。文学好きが縁で知り合った山田と僕は一年生の頃は暑い寒い臭い痛い(下宿の中を奇怪な虫が横行している為)の四苦に堪えながら下宿で本を読み漁っていたのだが、二年生になった時少子化により教室が多数余るという事態を幸いに文研の設立を考えたのであった。  山田は研究会設立について生徒会委員である黒川泉に相談したのであった。話を聞いた黒川は瞬時に文研を設立させ、そして何故か自身を文学研究会の長つまり会長としたのである。本来なら会長の権限で特定の人間を退会させるなど、出来なさそうだが生徒会と二足の草鞋の黒川ならば出来かねないのだった。   そんな黒川による暴政に僕と山田は困り果てるばかりであった。山田は黒川の正体が分かった日、一晩中僕に謝り続けた。しかしながら、文研が出来たのは山田の追力のお陰であるのだから僕は彼を慰め続けたのだった。 「こ、この…」 呻く山田を尻目に黒川さんは言った。 「それより聞いたわ、哀川くん。大変そうね?」 「え?なんの事?」 「何って貴方の妄想の事に決まっているじゃない。九条先生が虫に見えるのでしょう?」 「何故、それを…?」 「わたしは貴方の事なら何でも知っているのよ。ふふ。…冗談よ。そんなに怯えないで。さっき貴方達が話していた事が聴こえただけよ」 「あの距離で…?」 「そうよ、覗き見てたわ。この扉を薄く開けて貴方の口角の動きまでね」  黒川泉は容姿端麗頭脳明晰であり、男子生徒からは勿論女子生徒からも人気がある。僕も山田も実際に接してみるまでは仄かな好意を抱いていた。実際山田も文研設立を種に隣クラスの黒川に話し掛けるのが目的だったらしい。  しかし、実際は異常なまでの執着心を持った女で興味を持ったらとことんまで追い求めるのである。その対象が今は僕になっているのであった。まだ、その本性を見極め兼ねる頃、女子トイレに放課後まで監禁された事があった為、黒川の口車に乗せられないよう気をつけているが、その突飛な行動には付いていけないのが現状である。 「聴いていたなら、仕方ないな。まあ、そういう事だよ。でも、ただ僕が疲れていただけ。それだけの事だよ」   黒川さんは未だに僕達を部室に入れず、言う。 「本当にそうかしら?精神の異常或いは脳に何か異常があるのかも。わたしが診てあげるわ」
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