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「診てあげる…ってどういう事?」
「言葉の通りよ。今から貴方を診察します」
「診察って医者じゃないんだからさ…」
「何言ってるの?哀川くん。わたしは医者よ」
「え?」
「違った。医者の娘よ。だから勉学と並行して医学の勉学もしているの」
確かに黒川泉ならありえそうだが、いくらなんでもそれは無いだろう。何ども同じ相手に騙される程僕は愚かではないのだよ、黒川さん。
「はは、そんなの信じられる訳ないじゃないか」
「そう。信じてくれないのね。いいわ。じゃあ証明してあげる。山田」
「な、なんだよっ!」
暫くの間一人でぶつぶつと黒川さんに対する呪詛を唱えていた山田はビクッと反応して言った。
「貴方、後ろに三歩下がってみなさい」
「はぁ?何でだよっ?」
「わたしの医学を証明する時が来たのよ。言われた通りにしなさい」
再びぶつぶつと呪詛を唱えながら山田は三歩下がった。その瞬間、黒川泉は読んでいた本を宙に放り投げて、僕を部屋の中へと引っ張り同時に扉を閉めて鍵を掛けた。
彼女は何事も無かったかのように椅子に座り直して、落下してくる本を取り読んでいた。よく見ると僕が読もうとしていたドン・キホーテ三巻だった。 外から聞こえる山田の呪詛を物ともせず、黒川泉は徐に本を閉じて微笑んで言った。
「やっと二人になれたわね、哀川くん」
「お、お前また…」
「あ、間違えた間違えた。今から診察をするから服を脱いで頂戴」
「嫌だよ」
「嗚呼…貴方のそういう所って凄く好き…。物事をはっきり言うの。堪らないわ…。でも、哀川くん。貴方はわたしの言う事を信じられないと言った。つまりわたしが貴方に嘘を吐いていると。わたしが嘘吐きだと。そんなのわたしは堪えられないわ。だから今からそれを証明するの。わたしは誠実で心優しく美しい女神のような存在であるという事を。…それを抵抗するならそれもいいわ。貴方は一生この部屋から出られない」
黒川泉…!またしてもやられてしまった。僕は愚かな人間であったのか。知らなかった。
ここは山田が亜美ちゃんに対した如く、男の利を活かして現状を打破するのが妥当だろう。しかし、この女、黒川泉は武道全般を幼き頃から学んでおり押さえ込もうとしても逆に押さえ込まれてしまう。
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