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俺は結局、卒業するまでに誰かと交際することも童貞を捨てることもできなかった。
彼女に出逢うまで、数人と交際して酸いも甘いも経験した。
大人になってから彼女と再会するなんて、十代だった俺は思いもしないだろう。
そして彼女と……。
物思いに更けていると、教室の戸が開いた。
視線を向けると、先程の彼女が戻ってきた。
忘れ物か。
いや、そんなはずはない。ヤバイ、未来を変えてしまった。
彼女はゆっくりと俺に近づいて、真剣な眼差しでこう告げた。
「あたしが未来から来たっていったら、信じる?」
「……証拠は?」
「トラキヨくん」
俺はその名前を聞いて吹き出した。彼女もにかっと笑った。
トラキヨ。
それは俺の父親が、俺につける名前の候補として出した最初の名前だった。時代にそぐわないと親戚一同に反対されて、そのあとに今の名前になった。
そんなアングラな話を知ってるのは、親戚と、妻しかいない。
「ああ、信じるよ」
「ふふふ。あたしたち、あの頃に来てるのよね」
「不思議な感覚だね。ここから先君と毎日笑いあえる日常があるんだから、俺は幸せだよ」
彼女は照れて、クスリと笑った。
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