第1章

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『教室の戸を開けたら、そこにはんぺん。』 「はんぺん?」 自宅から持ってきた弁当なんぞ、早々に二時限目で食い終わり、学食で人気の親子丼パンで飢えを凌いだ昼休み。 小説家を目指していると言う学友、紅林宏(くればやし ひろし)が、変な事を呟いた。 「なあ、はんぺんが何だって?」 俺がそう質問すると、紅林はフフンと鼻を鳴らし、待ってましたとばかりに話し出す。 「いやね、新しい小説を書こうと思っててさ!これは凄いんだ!間違いなくヒットするよ!もう、ラストで涙が止まらなくなる事、確実さ!」 「へえ。」 「む。何だその気の抜けたクロワッサンみたいな返事は?ははん、信じて無いな!いいかい?俺は脳内プロットタイプだからさ、物語のラストまで脳内で、既に全て書き上がってる訳!キャラクター達が既に動いてる訳!後はそれをスマホに打ち込むだけの作業なんだよ!」 紅林はそう言ってプリプリしているが『今度のは凄い!』と言った小説が、過去にどれだけ有ったのか、コイツは覚えているのだろうか? そして、感動のラストと謳った数々の小説が、一作たりとも完結していない事をどう思っているのだろうか? でもまぁ、仕方ない。こんな奴でも親友だ。話に乗ってやろうじやないか。 「で、その凄い小説とはんぺんに何の関係が?」 俺が質問した途端、紅林の顔がパアッと明るくなった。相変わらず単純な奴だ。 「いいか?先ず、俺が小説を発表の場に選んだ媒体がスマホだってのが重要なのだよ。」 「ほお。」 「アッピーは知らないだろうけど、スマホ小説ってのはさ、出だしが肝心な訳。出だしが詰まらないと、どんなに素晴らしい感動がラストに待っていようとも、そこまで読んで貰えない。つまり、出だしが肝心!ってか、ヒットするか否かは出だしで99%決まると言っても過言では無いんだ!」 「へえ。そうなんだ。ってか、それは良いから そのアッピーっての止めてくんねーか?」 紅林は俺の事を何故かアッピーと呼ぶのだが、俺の名前は永島 俊信(ながしま としのぶ)だ。アッピー要素が何処にも見当たらない。
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