第1章

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 教室の戸を開けたら、そこには裸の王様が仰向けで寝そべっていた。 何故王様だと解るのかと言うと、裸なのに王冠だけはしっかり被っているからだ。 戸を開けた女生徒は、一様に「ひっ」と小さい悲鳴をあげ、その場から離れる。 その、数名の女生徒が教室の隅っこに集まり、裸で寝ている王様を指差していると、 やがて、男子生徒が登校して戸を開けた。 「んお!?」 男子生徒は驚き、暫く王様を眺めていたが、スタスタと歩き、近くの机の上に有ったワラ半紙を1枚取り、王様の脇に座ると「きたねー物 見せんじゃねーよ。」と言いながらそれを一物の上に被せる。 すると天井をジッと見つめていた王様が、ぐるりと首を捻り、男子生徒と目を合わせ 「すまんの。」 それだけ言い、また天井を見つめた。 「アンタ、なかなかキモイ動きするじゃんか!ちょっとビビったぞ?……で、何してんのここで?」 王様の脇でドッカと胡座をかいた男子生徒が王様に問うと、天井をジッと見つめていた王様が、又もぐるりと首を捻り、男子生徒と目を合わる 「我は大地。我は海。我は宇宙。我は森羅万象の王である。」 あ、ヤバい人かな?男子生徒はそう思った。尤も、裸の時点で既にヤバいのだけれども。 「我は森羅万象の王たる故に、殆ど食事を摂る必要が無い。しかしそれは、殆ど摂る必要が無いと言うことは、時折は食事を摂る必要が有ると言う事である。2954年の間、食事を摂らずにおったら、空腹で倒れてしもうた。永きの間、食事を摂らずにおったら、摂る事を忘れてしもうたのじゃ。若者よ。我に食事を。」 話を聞いていた男子生徒は、たいそう大笑いをし、ヒーヒー言いながら涙を流した。 そしてひとしきり笑うと、自分の鞄から弁当箱を取りだし蓋を開け「どうぞ、お摂り下さいませ、王様。」と、弁当箱を王様に差し出したのだが、指の1つも動かぬのだと王様が言うので「首はぐるりと動くのに?」と笑いながら箸を取り、先ずは一番大好物の鳥の唐揚げを箸に取ったのだが、いや待てよ。2954年振りの食事であるならば其れなりに消化の良いものから食した方が良かろうかと思い直して箸を置き、デザートに買っておいたヨーグルトの蓋を開け、スプーンで掬って王様の口に運んでやった。
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