第二章 お仕事しましょう

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「そうですか。…でも、そのまま出かけるってわけにもいかないですよ。三十分でも一時間でもいいならちょっと仮眠取るか、コーヒーの後シャワーでも浴びてすっきりするか、どっちにしろもう少しシャキッとした方がいいんじゃないですか。寝るんだったら時間になったら起こしますよ」 寝とぼけてて人前に出られる状態じゃないって教えてくれてるわけだね。どうもありがとう。 「シャワーにする…。寝るのは帰ってからにするわ…」 「了解です。簡単に食べられるもの、用意しておきますよ」 「すまんね。…冷蔵庫の中、何かあったかなぁ…」 後半はなかば独り言として呟きながら、浴室へ移動する。ここも本当は寝室と同じくプライベートスペースとして、鍵かけて分けておきたいのだが、トイレ、洗面所と隣接しているので構造上難しい。脱衣所の入り口の施錠を強化してあるので、それで良しとしている。 でも、こういう時つくづく思うが、野上が女性に興味のない人でよかった。エチケットとして鍵はもちろんかけるけど、それ以上は特に気を遣う必要ないもんね。何だかんだ言っても、マンションの一室でシャワー浴びてる時、一応鍵で隔てられてるとしても同じ空間に異性がいるというのはあまり気持ちのいいもんではない。その点、同性愛傾向の方なら、女の子がいるのと同じ感覚でいいわけだから。 そう考えると、現在のところ野上は意外と当たりかもしれない。普通の男の子だったらやっぱりやりにくかったかも。お互い全然そんな気なくたって、だからこそ気まずいものは気まずいだろう。こんなことまで想定して採用したわけじゃなかったから、たまたま運がよかった。同性愛の人って指定して採用活動するわけにいかないもんね。あ、単に女性限定で採用すればよかったのか。とにかく結果オーライである。 熱めのシャワーを浴びて、思いの外すっきり爽やかな気分になって出てくると、二杯目のコーヒーとトーストとあり合わせの野菜で作った簡単なサラダがキッチンの卓上に並んでいた。おお、ちょっと感動。社員採用してよかった…。 「結婚して奥さんもらうと、きっとこういう感じなんだろうなぁ」 「あぁ、いいですね。はい、もらってください」 一瞬意味が通じなかったが、相手の目線と調子でやっとわかる。お前がお嫁さまかい! まぁでも、しょうもない話題をつい振ってしまったのはわたしの落ち度だと思うので、ここは責任持って軽くスルー。
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