第二章 お仕事しましょう

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あと、今の自分とは反対の立ち位置から言うと、探してもなかなか見つからない本(しかも普通わざわざ探さない、しょうもない雑本)をリーズナブルな対価で探してくれるサービスがあったら、わたしなら絶対使うって思ったから。忙しくて古本屋にも寄ってられない日々がわたしにもあったし、そういう時に 「このシリーズの三冊目だけどうにも見つからない…。飛ばして次読んじゃうかなぁ、でも話の順序が前後すると楽しみが半減するし…。密林にもないし、古本屋巡りも今とても無理だし。誰かに頼んでおけたらなぁ」 と思うこともたびたびあった。ということは、自分が欲しいサービスは、他にも欲しいと考える人が一定数いるんじゃないか?と踏んだのである。 その目論見通り、今ではそれなりの数の固定客を持ち、常に注文を抱えた自転車操業でなんとか回っています。 最近は、だいたいどういう本が注文されるか傾向がわかってきたので、人気のある本や割と珍しくて手に入りにくそうな本はある程度キープしておくようにしている。注文を受けて初めて動くよりスピードアップするし、何より手間が省ける。 今日の仕事はその在庫を増やすためのもので、つきあいのある古本屋さんが、亡くなられた顧客の方の遺した本を買い取りさせて頂くのに便乗させてもらおうという、いわばコバンザメ方式の企画である。正しい(というのが語弊があるなら、きちんとした…、権威ある?うーん…)古本屋さんには、取り扱う本のジャンルが概ね決まっているところが結構あって、そういうお店では得意分野以外の本は始末に困ったり、買い取りを拒否したりすることがあるのを知っていたので、何軒かの古本屋さんと日頃から親しくさせて頂いてこういうルートを作っておいているのである。 翠文堂さんに連絡を入れて現地集合にしてもらい、野上が自宅から持って来た車に乗ってその家へ向かうことにする。幾分かシャキッとした状態になって下へ降りて行くと、ヤツが乗りつけて来た車はシルバーのプリウスだった。ふぅーん。 「こういう趣味なんだ」 結構普通だな。いや別に悪いことないけど。 「実家の車なんで。俺が選んだわけじゃないです」 「なるほど」 いかにもそんな感じだよね。 「あんまり車に対するこだわりとかないんだ」 野上は運転しながら事も無げに答えた。 「うーん、そうですね、そういうのあんまりないかもしれないです」
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